『硫黄島からの手紙』

むやみやたらに死を美化しなのがいいね。これは日本人の手で作られるべき映画だったが、人を死なせて感動を盛り上げる使命を担わされているテレビ主導の最近の日本映画じゃ無理だよな。馬鹿げた医者叩きで視聴者を欺くことでしか世の関心をひけないテレビ局だからな。連中が日本の医療も映画もダメにしちまったのさ。

僕が嬉しかったのは、戦争映画における「どうせ勝ち目がないなら、せめて散り際美しく」という従来の論理よりも、「死ぬのは敵を10人殺してから」という合理性が重視されていたこと。つまり「どうしてその沢山の手榴弾を自分じゃなく敵に向かって投げないんだ?」という素朴な疑問に立ち返った映画なのである。米軍に比べて、末端の兵士や有能な指揮官を無駄遣いする日本軍のメンタリティは現代においても持続している。60年たっても、人の命も気持ちも合理的思考を大事にしない社会なのである。そうだ、とりあえずメチャクチャに医者を働かせて、燃え尽きさせる現代社会と同じだ。

距離感を維持しながら人物の感情を描く場面や、人間が本質的に負わざるを得ない残虐性、といったイーストウッドらしさはなかったが、それはまあよしとしよう。